歴史の大きな節目がやってくるんだと感じた時、
なぜかむくむくとわいてきたのは「大掃除したい」という気持ち。
感覚としては30年に一度の大晦日みたいな感じだったからでしょうか。
きれいに清めてから新しい時代を迎えなければと考えてしまう。
つくづく自分は日本人なんだなぁと思いながら、10連休の前半はひたすら掃除をしていました。
でもSNSを見ると、大掃除とか年越し蕎麦とか
大晦日感覚で過ごしていた人やはり多かったようですね。
大掃除を終え、晴々と10連休後半に突入したところで
次に聞こえてきたのは「美しいものを見て心静かに過ごしたい」という心の声。
というわけで、あちこち出かけてきました。
まず季節の美しい花を見たいな。この季節なら藤かな。
だけど都内で藤の名所と名高い亀戸天神には既に行ったことがあるので、
今回は調布市の国領神社へ行ってみることにしました。
境内はそれほど広くないものの大きな藤棚があり、
「千年藤」と呼ばれる樹齢400~500年の藤の花が満開で、一面に藤のいい香りが漂っています。
ただ、ここは午前中に訪れた方がよいところなのかも。
午後だったためか、藤棚が陰に入っていて、藤色があまり冴えない。
次は午前中に行ってみよう。
今日は駒場の日本近代文学館へ。
ここは一般的にはあまりなじみのない場所かもしれませんが、
私のように大学で日本文学の、それも近代文学を専攻していた人にとってはなくてはならない場所です。
近代以降の日本文学に関する資料や作家の直筆原稿などを蔵する専門資料館なので、
日文生なら卒論や研究のために通った方も多いはず。
私も友達と連れ立って行った記憶があります。
ただ、日本文学の研究者になるんだーと意気込んで大学に入ったのにも関わらず、
ずぶずぶずるずると道をそれ、気づいたら違う道を歩いている私にとっては
ここはある意味〝挫折の象徴”みたいな場所でもあり(哀)。
卒業してからはなんとなく足が向かず、結局ご無沙汰のままに時が過ぎていました。
でも、もういいや、令和になったんだから。
平成の悔恨はかなぐりすてて、もう一度かつて夢見た場所に足をふみいれてみようと、相当久しぶりに行ってきました。
ただいま近代文学館。こんなんだけど帰ってきたよ。
ちょうど生誕110年「太宰治 創作の舞台裏」展が開催されてました。
会場に太宰の直筆原稿や下書き、メモなどが展示されて
推敲の過程や、検閲によって変わった表現などもわかるようになっています。
まるで日文演習の時間に戻ったような気分(懐)。
ちなみに私が一番好きな太宰の作品は『黄金風景』です。
とても短い作品ですが、太宰治自身であると思われる主人公には
傲慢さや人としての弱さがにじみ出ているのですが、
ラストではただまっすぐ生きる人の強さがそれらすべてをうちのめしてしまう。
爽やかな読後感を残す美しい掌編です。
これまでたくさんの太宰好きさんに出会いましたが
「一番好きなのは黄金風景」と言っても誰一人として賛同者には出会えませんでした。
が、しかし。
先日読んだ齊藤孝著『ネット断ち』で太宰の名作として『黄金風景』が勧められていて、私思わずにやけちゃいました。
ものの数分で読めるので、興味ある方は読んでみてください。
閑話休題。
展示を見た後は日本近代文学館内にある「 BUNDAN COFFEE&BEER」へ。
だいぶ前にできたこのカフェはコンセプチャルなブックカフェとしてとても有名ですが、
特筆すべきは文豪にちなんだメニューの数々。
「芥川」「鴎外」「寺山」などと名づけられたコーヒーは作家ゆかりの味を再現。
ほかに文豪が愛した味や、作品に登場するメニューも再現されます。
以前ここのメニューについての本『食べ物語る BUNDANレシピ』を読んだことがあったので
一度行ってみたいと思っていました。
それに、今日はどうしても食べたい目当てのメニューがあったんです。
それは展示と連動して期間限定で登場した「グリンピイスのスウプ」。
太宰治の晩年の名作『斜陽』の冒頭、
没落貴族である主人公の母が「ひらりと一さじ」音もなくスウプを流し込むあのシーン。
あのスウプが再現されているんです。
限定10皿とのことですが、間に合ったので注文しました。
運ばれてきたときの高揚感といったら。
ほええ!!! たまらん。
元文学少女、完全にノックアウトされるの巻。
こういう食体験を演出してくれるとは、なんと心憎いカフェなのでしょうか。
ほかにもいろんな料理が再現されているので文学好きな方は行って損はないですよ。
店内は書架の本を読みながら過ごせるので、
私は好きだった立原道造のヒヤシンスハウスについての本を読み。
学生時代に戻ったような幸せな時間を過ごすことができました。
日本近代文学館の後はすぐ近くにある日本民藝館にも。
柳宗悦によって開設され、民藝運動の本拠地であった民藝館では『藍染の絞り~片野元彦の仕事』展が開催されていました。
取材で藍染の工房をたずねたことがあります。
たくさんの甕が並ぶ工房にたちこめる藍の香り。
あの草からどうしてあの色が出るのか不思議でならなかった。
たくさんの藍染が展示された館内は静かで力強い美しさに満ちていて、
何時間でもここにいたいと思った。
10連休の一日、心にしみる駒場さんぽでした。