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5分で分かる? 『ニッポン神様ごはん』はこんな本

明けましておめでとうございます。吉野りり花です。
昨年もよく書きました。そして今年もいっぱい書きます。
本年も宜しくお願いします。

さて、年末に新刊が発売されました。
神様の食「神饌」をテーマにした『ニッポン神様ごはん』という本です。
全国の10の特殊神饌を、私がひとりで訪ね歩いて取材・撮影しながらまとめた本です。
amazonなどのネット書店や全国書店にも並び始めました。

この本は、ぜひぜひ、たくさんの人に読んでもらいたい。
ということで、新年のご挨拶代わりに
どんな本なのかダイジェストで解説したいと思います。




神饌って何?

神様がお食事をなさるということをご存知の方はおそらく少ないでしょう。
が、神様にもお食事の時間があります。
神社では毎日神様にお食事を献供します。それを「神饌」と呼びます。


なぜ神饌に興味を持ったのか?

私は神社の助勤巫女としてご奉仕していた経験があります。
(神社で働くことを奉仕・奉職といいます)
助勤巫女というと通常はお正月や七五三などの繁忙期に臨時でということが多いのですが、
私の場合、継続して一年を通じてご奉仕していました。
そのため、ほぼ本職と変わらない内容を担当していました。

境内の掃除、社務所でのお札やお守りの授与にはじまり、
御祈祷のご案内、結婚式の進行役や三三九度、地鎮祭の鎮め物の準備、巫女舞の奉奠まで。
そんな中で御神饌の準備を間近で見る機会も当然ありました。

私たちの身近にある食材が、神様に献供するというプロセスを経ることで
特別で神聖なものに変化するかのように感じ、とても驚きました。


どんなものが供えられるの?

神社の御神前に、御神酒や野菜などが供えられているのを見たことがある方は多いかもしれません。
正式には大きな祭では「米、酒、餅、海の魚、川の魚、野の鳥、水鳥、海菜、野菜…」などと
細かく品目が決められています。

ですが、これが決められたのは明治時代で、
それ以前はもっといろんなものが使われていました。

餅ひとつとっても、神社や祭りによって、いろんな作り方があります。
獣肉を用いる例は少ないと思われるかもしれませんが、なかには鹿や猪が献じられる例もあります。
食材だけでなく、花や兜なども神饌に使われます。


写真は第4章大神神社の鎮花祭で供えられる薬草です
スイカズラとユリネを使い、桃の花を添えます。

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神饌は食のタイムカプセル

神社によっては独自の神饌が受け継がれています。
古代の作り方をそのまま継承して作り続けられているものもあります。
これを特殊神饌といいます。

神様に捧げるものだから、簡単に作り方を変えるわけにはいかない。
神々の食事という特殊な役割を担っていたからこそ、
古代食のおもかげがそのまま残されたという例もあります。
これが、神饌が「食のタイムカプセル」と称されるゆえんです。

現代の私たちが、古代の食事を実際に見られると考えるとワクワクしませんか?


写真は第2章の老杉神社のエトエトで作られる「めずし」。
酒粕をボールのように丸め、指で穴をあけ、
琵琶湖の魚・ボテジャコを生きたまま突き刺します。

なんでそんなことを?と思ってしまいますが、
ボテジャコをお酒に酔わせることで、
神様に少しでも新鮮なものを召し上がっていただこうという気持ちのあらわれだそうです。
これは古代のすしの原型とも言われます。

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こちらは宮城県塩竈市の御釜神社の藻塩焼神事。
海水を釜で煮詰める古代の塩づくりが、神事の中で受け継がれています。
海水を漉すのにはホンダワラという海藻を使います。


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神饌は芸術的

神様に捧げるものだから、丁寧に、心を込めて、最上のものを使って作られます。
なかには芸術的な美しさを持つものも。
有名なものに談山神社・嘉吉祭の百味御食があります。

写真は京都・北白川天神宮の高盛御供です。
一見、どうやって作るのか見当もつきませんよね。
飾りの文様にもひとつひとつ意味があるんですよ。

この高盛を運ぶのは白川から洛中に花を売り歩いた白川女の衣装に身を包む女性達。
白川女は頭の上に重い花をのせて運んだことから、
高盛も頭の上にのせて、運びます。

このように、神饌を通して土地の歴史や文化が見えてくるのも面白いところです。

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こちらは貴船神社の若菜神事で献供されるぶと団子としいば餅。
ぶとは中国から伝わった唐菓子の一種で、神饌によく使われます。
春日大社の御神饌に用いられることでも知られ、
奈良ではぶと饅頭というお菓子も販売されています。
(そうめんの起源とされる索餅なども唐菓子のひとつです)

春日大社のぶとは揚げて作られるそうですが、
貴船のぶと団子は揚げずに作ります。
むすぶような形にも意味が込められます。

神饌は、形や色や運び方や作法にまで、さまざまに意味が込められているのも興味深い点です。


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どう変化し、どう守るか?迷いながら受け継ぐ人々


日本の生活はすっかり様変わりしました。
四季と農事にあわせた信仰は、今の時代には即さない部分も増えています。

そんな中でどう受け継ぐか。
継承する方々は迷いながらも伝統を守り続けていらっしゃいます。
受け継ぐ方々の姿もしっかり伝えたいというのがこの本のひとつのテーマです。

人々は何を想い、何を祈り、どう受け継いできたのか。これから先はどうなるのか?
受け継ぐ人々の想いも感じてもらえたら嬉しいです。


というわけで、皆様
ぜひぜひ読んでみてください。





最後に、読み方のコツ

神饌というマニアックなテーマを扱っているため
序章で神饌とは何かを説明しています。
ただ、テーマがテーマだけに、どうしても少々専門的になってしまいます。

本書を旅エッセイとして旅の雰囲気を味わいながら楽しみたい方は
ぜひ第一章の貴船神社から読み始めてください。
旅に出ているような気分で、読み進められるはずです。
最後に序章を読んでもらえたら、すっと分かると思います。

民俗学関連の本を読み慣れているから全然平気という方は
どうぞ「序章」からお読みください。

神饌の準備は本来非公開で、女人禁制で行われることも多いです。
特別に取材や見学を許可してくださった取材先の方々には感謝ばかりです。

皆様もこの本を通じて、知られざる伝統の世界をのぞいてみて下さい。


【追記2020年3月】書評掲載  東京新聞/中日新聞、西日本新聞で紹介されました!

by lyrica-sha | 2020-01-10 16:32 | お仕事のお知らせ・掲載情報

日本の旅ライター・旅エッセイスト吉野りり花のブログです。日本の風景を詩的に綴る旅エッセイ、食の民俗学、食べるお守り、神々の食・神饌について書いてます。著書『日本まじない食図鑑~お守りを食べ、縁起を味わう』『ニッポン神様ごはん~全国の神饌を訪ねて』(青弓社)。執筆ご依頼やお問い合わせはサイトの問い合わせ欄よりご連絡ください。https://lyricayoshino.com


by 吉野りり花