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和田剛写真展「新緑」+トークショー「ふつうの福島を語ろう」

何度か一緒にお仕事させてもらった写真家の和田剛さんの写真展があると聞き、
5月30日に銀座スワンカフェに出かけてきました。

和田剛写真展「新緑」

この日は写真展とあわせて「ふつうの福島を語ろう」と題したトークショーも。
福島の昔ながらの暮らしを紹介する冊子「板木」編集長の木下真理子さん、
「板木」ライターの小久保よしのさんと3人のお話を聞いてきました。
実は小久保よしのさんとは復興に関わる新聞が縁で昨年末にお知り合いになったばかり。
というわけで再会を楽しみにお邪魔してきました。

和田さんの写真には、芽吹き始めた新緑の中で手をつなぐ人々の姿が。
トークショーでは福島の素敵なところ、県民性、ふるさとの暮らし等、
普通の福島の話を聞いて、みんなで福島のちまきを包みました。
そんな穏やかな時間を過ごしながらも、私はおととしの取材を思い出していました。


「ここは日本で一番特殊なところですよ」
そんな言葉を聞いたのは和田さんも一緒だった福島県南相馬市での取材の席。
「ほかの被災地は、言葉は悪いけれど、これから復興だけを目指せばいい。
でも、ここは終わりがどこかすらまだ見えないところ。
はじまることすらできない」

理解していたはずだけど、それに対してなにか言葉を発する権利など
私は持っていないような気がしてなんと言っていいか分からなかった。
複雑な思いをかみしめて取材先をあとにした。
帰路、車で飯館村を通った。
国道沿いではいまだ終わらない除染作業。
山積みにされた土入りの袋の山。
わかっていたはずの現実が目の前にある。
今から東京に戻ることがとてつもなく後ろめたかった。
駅前に煌々と灯りのともった東京に。

たくさんの悲しさ悔しさ課題を抱えた人たちの前に
取材という名目で訪れる私たちよそものを
現地の人たちは迎えてくれる。
その人たちに何ができるのかいつも自問する。
不用意な質問が心を乱してやいないか気に病みつつ、
取材を終えたら「東京」に帰ることにとてつもない後ろめたさを感じる。
新幹線を下りると東京駅から見える風景にどっと疲れる。
東京的なものへの嫌悪感、現地の人たちへのやましさ。
生活や生き方を変えたいという気持ち。
私はこういうものを全部宙ぶらりんにしたまま数年過ごしてしまいました。

ずっと被災地に通い続けて、手をつなぐ人たちを撮り続けた和田さん。
福島のふつうの暮らしを取材し続けた小久保さん。
二人にもきっと、東京から現地に通った人独特の複雑な思いがあったんだろうな。
そんなことを考えました。

まとまらないけれど、そして、いまだ答えらしきものが見つからないけれど、
大好きになった東北に通っていたいというのが今の思いです。
福島には観光で訪れても素敵なところがいっぱいあるので、
行ったことのない方も訪れてみてほしいです。
写真は春先に取材に行った湯野上温泉の駅舎。
日本で唯一の茅葺き駅舎です。

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by lyrica-sha | 2015-06-09 15:37 | 日記

日本の旅ライター・旅エッセイスト吉野りり花のブログです。日本の風景を詩的に綴る旅エッセイ、食の民俗学、食べるお守り、神々の食・神饌について書いてます。著書『日本まじない食図鑑~お守りを食べ、縁起を味わう』『ニッポン神様ごはん~全国の神饌を訪ねて』(青弓社)。執筆ご依頼やお問い合わせはサイトの問い合わせ欄よりご連絡ください。https://lyricayoshino.com


by 吉野りり花